大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所金沢支部 昭和25年(う)625号 判決

所論(一)の要旨はかねて貸金業を営んでいた被告人は新聞紙上で貸金業等の取締に関する法律施行の予報を知つて警察及代書人に其の対策を相談したうえ、質屋も金融業であるから質屋の許可を取れば両方兼ねることが出来るとの確信に到達したので右代書人から警察に手続を取つてもらい、昭和二十四年五月十五日附けで質屋営業の許可を受け安心して本件貸金をしていたのであるから被告人には違法の認識がなく無罪であるというのであるが、貸金業等の取締に関する法律第二条乃至第五条によれば貸金業を行うとする者はあらかじめ所定の届出書を大蔵大臣に提出してその届出受理書の交付を受けなければならないから単に所轄公安委員会から質屋営業の許可を受けたに過ぎない者が前記法律にいわゆる貸金業を営むときは同法律違反をもつて問擬せらるべきことは明白な事理であつて被告人が仮に弁護人主張のように質屋営業の許可をもつて法律所定の貸金業を営みうるものと誤信したとすれば、これは通常人として有すべき注意義務を著しく懈怠した精神の所産であつて当時前記法律の施行を必要とした経済社会の条理に背反する心理状態であることは否むことが出来ない。故に被告人の右錯誤は正当な根拠及び理由を有しない単純な法律の不知に止まり本件行為の違法性認識を阻却するに至らないものと云わなければならない。而も原判決挙示の証拠によれば被告人は本件貸金行為と並行して質屋として貸金を行い後者につき質屋取締法所定の帳付などの手続を践み前者の貸金と明確に区分していた事実を窺うことが出来るから被告人は質屋営業と貸金業との性質上並に取締法上の差違を十分に認識する能力を具え且つ現にこれを認識した上本件貸金業を営んだことが明かであり従つて被告人が質屋営業の許可をもつて貸金業を行い得るもの即ち右許可の効力が貸金業に及ぶものと誤断したということ自体常識に照らし殆んど措信し得ないところである。尚念の為め弁護人の右主張の趣旨を広く解し被告人が質屋営業の許可を有する者は貸金業等の取締に関する法律の適用から除外され自由に貸金業を行い得るものと誤信したとの意味に取るとしても以上と同様の理由で同一の結論に帰着することは説明を要しないであらう。よつて本論旨は右何れの角度からしても採用出来ない。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!